まずは良いニュースから。
一審で差止請求等が認められたロクラクII事件(東京地判平成20年5月28日
裁判所HP)ですが、控訴審において原判決取消し・請求棄却となりました(知財高判平成21年1月27日
裁判所HP)。つまり差止め等が認められなかったわけです。
番組の海外転送サービスは「適法」 テレビ局側逆転敗訴(MSN産経ニュース、2009年1月27日)
一審判決は、いわゆるカラオケ法理を適用して、被告は原告(テレビ局)らの著作権・著作隣接権(複製権)の侵害主体であるとしていました。
ところが控訴審判決は、結論として、
「控訴人〔被告〕が本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行っているものと認めることはできない、すなわち、控訴人〔被告〕の本件サービスは、利用者の自由な意思に基づいて行われる私的使用のための複製を容易にするための環境、条件等の提供行為にすぎないものと判断」
してテレビ局側の請求を棄却しています。
これまで、録画ネット、選撮見録、本件一審判決と侵害主体性を肯定する事例が目立っていた(その唯一の例外がまねきTV)ところ、肯定した一審判決を覆して侵害主体性を否定した本件控訴審判決は非常に画期的であると言えます。
これらカラオケ法理の不明確な拡張適用によって斬新なインターネットサービスの提供が阻害されている、という批判もあったところですから、今回の控訴審判決はサービス提供者にとっては朗報となるでしょう。
まねきTV事件控訴審判決に対しては上告受理申立てがされているようですし、おそらく本件も上告・上告受理申立てがなされるでしょう。
そうすると、来年か再来年あたりには、いよいよ最高裁判決が出て決着するのではないかと期待されます。
さて、次は悪いニュース。
一審で無罪判決が出ていたラーメン花月に関する名誉毀損事件(東京地判平成20年2月29日判時2009号151頁)が高裁で逆転有罪となりました(東京高判平成21年1月30日未公表)。
ネット書き込みで名誉棄損、二審は逆転有罪 東京高裁(asahi.com、2009年1月30日)
中傷書き込み、逆転有罪=ネットで名誉棄損−東京高裁(Yahoo!ニュース(時事通信)、同日)
この事件は、インターネット上でラーメンチェーン「花月」に関して情報発信をした被告人が、名誉毀損罪に問われた事案です。
一審判決は、
「インターネットの利用者は相互に情報の発受信に関して対等の地位に立ち言論を応酬し合える点において、これまでの情報媒体とは著しく異なった特徴をもっている」
というインターネットの特性である高度の反論可能性を根拠に、
「被害者が、自ら進んで加害者からの名誉毀損的表現を誘発する情報をインターネット上で先に発信したとか、加害者の名誉毀損的表現がなされた前後の経緯に照らして、加害者の当該表現に対する被害者による情報発信を期待してもおかしくないとかいうような特段の事情...が認められるときには、被害者が実際に反論したかどうかは問わずに、そのような反論の可能性があることをもって加害者の名誉毀損罪の成立を妨げる前提状況とすることが許されるものと考えられる。」
とし、またこれに続けて、インターネット上の情報発信については、
「個人利用者がインターネット上で発信した情報の信頼性は一般的に低いものと受けとめられている」
から、
「加害者が主として公益を図る目的のもと、「公共の利害に関する事実」についてインターネットを使って名誉毀損的表現に及んだ場合には、...加害者が、摘示した事実が真実でないことを知りながら発信したか、あるいは、インターネットの個人利用者に対して要求される水準を満たす調査を行わず真実かどうか確かめないで発信したといえるときにはじめて同罪に問擬するのが相当と考える。」
という従来にない新たな基準を定立し、これを適用することで無罪との結論を導いていました。
これに対し控訴審判決は、上掲の時事通信の記事によれば、次のように判断したようです。
「一審はネット上の個人表現について、一般に信頼性が低く、反論が容易として、可能な調査をしていれば同罪は成立しないとの新基準を示していた。控訴審判決は『さらなる社会的評価の低下を恐れて反論を控えるケースがある。内容も、必ずしも信頼性が低いとはいえない』と述べた。」
その上で、刑法230条の2に関する従来どおりの判例法理に依拠し、本件では真実性の証明がなく、かつ真実と誤信したことに相当の理由もないとして、有罪としました。
うーん、まあ難しいところですね。
控訴審判決が指摘するように、インターネット上の情報だからといって必ずしも信頼性が低いと受け取られているとも言えないでしょう(ヘビーユーザはともかく、リテラシーの低いユーザの中には鵜呑みにする人も大勢いそうです。)。
また、下手に反論するとさらに炎上して祭りになるという実例を目にしている立場からすると、反論できるのだからそれでいいじゃないか、と割り切るのにも抵抗があります。
とはいえ、一審判決が懸念するように、従来の基準のままだとインターネットを用いた情報発信が過度に萎縮されるおそれがある、というのもその通りです。
そのバランスをどうとるか、ということが、今後上告審(最高裁)で審理されることになるのでしょう。
追記:
東京新聞:男性に逆転有罪 HP書き込み 東京高裁判決『閲覧で被害深刻』(東京新聞、1月31日)